導入事例

川内市医師会立市民病院様 [臨床と運営に貢献するシステム導入・運用の要諦]
被ばく管理及び看護記録と連携した当院動画像ネットワークシステムの概要

川内市医師会立市民病院様

川内市医師会立市民病院では、2020年3月にフォトロン メディカル イメージング社製の「Kada動画ネットワークシステム」を更新したことで、新たに同システムにオプションとして付随する「放射線被ばく線量管理レポート」及び「看護記録システム」の稼働が可能となった。このシステムと既存の「検査治療レポートシステム」、「病院情報システムの看護記録」とを連携させ、主に循環器内科領域(心臓カテーテル治療)における、医療放射線管理上の放射線過剰照射患者対策システムの運用を開始したので、その概要を本稿で紹介する。

※川内市医師会立市民病院 医療技術部放射線課 薗田大樹様に執筆いただきました。月刊新医療2022年1月号からの転載文

導入製品

川内市医師会立市民病院(以下、当院)は、鹿児島県薩摩川内市に立地し、地域医療支援病院として、診療科11科、病床数224床を有する急性期医療を中心とした中核病院である。得意とする医療として、同地域における心臓カテーテル治療を一手に担い、救急患者に関わらず多くの心臓カテーテル治療対象の患者を受け入れている。
そのような状況において、当院では2014年3月にフォトロン メディカル イメージング社製の「Kada動画ネットワークシステム」(以下、本システム。図1)を導入した。当時の選定理由としては、県内の導入実績に加え、血管造影画像やUS画像などのマルチフレーム形式画像を動画で閲覧でき、当院の仕様、要求に合わせてカスタマイズ可能な点も考慮したことが挙げられる。

図1 kada動画像ネットワークシステム
図1 kada動画像ネットワークシステム

放射線被ばく線量管理レポート機能の導入

導入から6年目を迎えた2020年3月にPACSを更新するにあたり、本システムも更新する運びとなり、オプションではあるが新たな機能として「放射線被ばく線量管理レポート」(以下、線量レポート)を導入した。2019年3月に医療法施行規則の一部を改正する省令が公布され、2020年4月より医療放射線の線量記録及び管理が各医療機関に義務づけられることとなり、当院でも医療放射線被ばく線量管理(以下、被ばく線量管理)システムを導入しなければならない状況にあったことが、その理由である。
 この線量管理システムの特徴としては、被ばく線量を解析し、胸部のシェーマに被ばく線量分布を色ごとに分布図として表示可能であることから、患者やスタッフに被ばく部位を分かりやすく提示できることや、レポートシステムがファイルメーカーを元に構成されているため、施設運用に応じたシステムの構築ができることなどが挙げられる。また、動画PACSの機能として付随されたものなので、別途導入するよりコストの面でもメリットがあったことも、導入の理由及び特徴である。

当院の医療放射線被ばく管理体制

1. 被ばく線量管理をするにあたっての準備
血管造影に対して被ばく線量管理をするにあたり、IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン(2004年6月9日「IVR等に伴う放射線皮膚障害とその防護対策検討会」発表)を参考に、基準線量の値を設定した。加えて、当院の主なIVRに関わる循環器内科、脳神経外科の医師への聞き取りや、他施設からの情報をもとに、医療放射線管理責任者の医師と協議し、術後の皮膚観察などを必要とする基準線量を3Gyとした。

2. 被ばく線量レポート作成の手順
血管造影検査終了後、モダリティよりフォトロン社製DICOM動画サーバ「Kada-Serve」(以下、動画サーバ)へ、Radiation Dose Structured Report(以下、RDSR)が自動送信される。担当の診療放射線技師は、血管造影操作室内にあるクライアント端末にインストールされている被ばく線量レポートのアプリケーションにRDSRを動画サーバから取り込み検査の線量・角度情報の取得を行うことによって、撮影・透視・総線量・面積線量などの情報が、自動的に被ばく線量レポートに入力される。 また、同時に撮影方向ごとの線量情報をもとに、皮膚の被ばくの程度が色ごとに分布図として表示され(図2)、これにより最大皮膚被ばくの部位が把握できる。さらには、この患者単位での被ばく線量レポートをPDFとして出力し、電子カルテ側からも閲覧可能となる。

3. 被ばく線量レポート作成の手順
当院では2020年に改訂された診断参考レベル(DRLs2020)に対応する形で、検査後に被ばく線量管理システムへ入力する項目を作成した。DRLs2020項目に関しては、線量の値が異なるので、検査ごとにどの項目に当てはまるのかをプルダウン形式で選択できる仕様とした。
また、DRLs2020と比較し、検査や治療時の放射線被ばく線量が超過した場合や、合併症や難渋した症例で被ばく線量が比較的多くなってしまった場合に、担当した診療放射線技師はその詳細な理由を被ばく線量レポートの備考欄(図2)に記載することとした。このような形とした理由は、線量過多等の理由を詳細に記録することにより、後日線量管理を行う際、当時の検査、治療の詳しい状況を把握し分析できることにある。

図2 撮影方向ごとに線量情報を基に皮膚の被ばくの程度が分布図として表示される。また、備考欄を利用して超過理由を記入
図2 撮影方向ごとに線量情報を基に皮膚の被ばくの程度が分布図として表示される。また、備考欄を利用して超過理由を記入

4. 被ばく線量管理の画面構成
当院では、血管造影線量管理担当者の診療放射線技師が1ヵ月ごとに管理を行っている。したがって、画面構成に関しては、1ヵ月単位で表示した検査のリストにおいて、線量ごとに色分けを行い、ソートをかけることも可能である。 また、検査内容を確認する方法として、前述のDRLs2020の項目の記入内容や備考欄に記載した内容を確認できるなど、必要な項目のみ1画面で表示できるようカスタマイズした(図3)。その他、リストをCSV出力し、編集することも可能である。このことにより、データの活用方法が広がった。5. 基準線量を超過した場合の患者対応 基準線量を超過した場合の連絡体制は、検査を担当した診療放射線技師が、線量データ集計後、線量レポートを作成し主治医に報告する。そして、主治医から担当看護師へ患者ケアなどの指示を行う運用とした。

図3 必要な項目のみ1画面で表示できるようにカスタマイズ
図3 必要な項目のみ1画面で表示できるようにカスタマイズ

主治医の患者への対応については、検査結果説明時に放射線被ばく線量が多くなったことや今後の皮膚への影響について、当院が作成した説明用紙(図4)に沿って説明してもらうことにした。心臓カテーテル治療の場合、短ければ2日で退院することもあるので、遅発的影響の説明と症状が発現した際の当院への連絡先も、説明用紙に記載した。
看護師の患者への対応としては、検査後、毎日の皮膚の観察が必要なため、当院看護部協力のもと、看護情報管理委員会、診療録管理委員会などを経て、電子カルテ側に他の看護記録と同レベルの位置に、皮膚観察用のセットメニューが展開できるように設定してもらった(図5)。また、医師、看護師用の患者対応マニュアル(図6)を作成し、患者へのケアの方法などを明記して、周知を行った。入院中は毎日皮膚観察を行うこととし、皮膚障害が起こる可能性のある部位に関しては、前述の通り、線量レポートが院内の電子カルテのどこからでも閲覧できるため、看護師が直接確認する運用とした。

図4 血管造影検査後の患者説明書
図4 血管造影検査後の患者説明書
図4 血管造影検査後の患者説明書 図5 HISの看護記録に観察セットメニューで選択可能
(左)図5 HISの看護記録に観察セットメニューで選択可能 (右)図6 医師、看護師用の患者対応マニュアル

看護記録システムの導入効果

今回、本システムに更新するにあたり、血管造影検査時の看護記録システムについても、記録作業の簡便化や効率化を期待し導入した。入力する端末に関しては、利便性を考慮し、電子カルテノート型PCに相乗りする形で検査室内に配置した。以前は紙記録であり、電子化に移行する上での不安はあったが、直感的に操作できるレイアウトや記録方法であったため、スムーズに運用を開始することができた。システムの特長として、記録の定型文をワンクリックで画面に挿入が可能なことや、使用物品をバーコードで読み取り、記載できることが挙げられる。
また、病棟の電子カルテ端末にレポートライセンスを相乗りしておけば、看護記録をリアルタイムで閲覧でき、病棟看護師も検査の進行状況などを把握できるようになった。血管造影担当看護師の導入後の感想も、「紙記録と比較し記録作業の効率が格段に上がった」と好評である。

検査治療レポートシステムの導入効果

当院では、本システムに更新する以前は、医師が検査治療レポートを電子カルテに記入していた。当時から検査治療レポートシステム自体は導入していたものの、電子カルテと連携していなかったことで、使用頻度が少なかった。
今回の更新により、電子カルテへの相乗りが可能となり、複数ライセンスを購入することで、医師が希望する端末でレポートの作成が可能となった。当院では医師が検査終了後、比較的早期に検査治療レポートを記入しているが、以前は紙スキャン後でしか閲覧できなかった看護記録も、レポートシステムと連携しているため、検査終了後すぐにレポートを記入するための情報を得ることができ、レポート作成における作業効率も向上した。

まとめ

これまで述べてきたように、本システムを導入、更新することで、情報の連携が可能となり、被ばく線量レポート、看護記録、検査治療レポートの記入する際の作業効率が大幅に向上した。また、電子カルテとの連携により、院内の全ての電子カルテ端末で上記3種類のレポートが閲覧可能となり、医療スタッフに対しても情報の共有が容易にできるようになった。現状では当院の基準線量を超えた症例は少ないが、今後、経験を積み重ねるにしたがって、さまざまな課題が見えてくることが予想されるので、それに柔軟に対応できるシステムの構築が大事であると考える。 ベンダーへの期待としては、以下のものがあげられる。現在、皮膚被ばく部位確認のシェーマに関して、胸部のシェーマのみ対応しており、頭部や腹部、下肢においては対応していない。これに対応することによって、全身における最大皮膚被ばくの部位を把握できる。さらに将来、RDSRの角度情報、位置情報をもとに、現在の二次元的なシェーマに代わり、三次元的な部位の情報を得て、臓器ごとの被ばく線量の表示が可能になると、精度の向上につながると考える。また、昨今の水晶体被ばくの線量限度改定を受け、術者やスタッフの職業放射線被ばく管理もリアルタイムでモニタリングできるようなシステムが構築されると、さらなる有用性につながると考えられる。 今回、当院の動画像ネットワークシステム導入活用事例を紹介したが、各施設によって管理や運用方法が異なってくると予想される。本稿がその管理や運用方法を決める一助となれば幸いである。

薗田大樹(そのだ・たいき)

●88年鹿児島県生まれ。11年鹿児島医療技術専門学校 診療放射線技術学科卒業。同年川内市医師会立市民病院 医療技術部放射線課入職。
資格:診療放射線技師、医療情報技師。

川内市医師会立市民病院 医療技術部放射線課 薗田大樹
川内市医師会立市民病院 医療技術部放射線課 薗田大樹

関連する導入事例