導入事例
三重大学医学部附属病院様
新病棟開院に合わせた
循環器動画ネットワークの更新
要旨:当院では新病院開院に伴い、放射線部門のさらなる充実を図るべく血管撮影装置をはじめ多くの放射線機器を更新した。動画ネットワークシステムにおいてもさらなる利便性を追求すべく、フォトロン メディカル イメージング(以下、フォトロン)のKada-Solution を導入し、循環器系画像診断に関する効率的なシステムを構築することができたので報告する。
三重大学医学部附属病院 中央放射線部 山田剛様に執筆いただきました。
月刊新医療2014年1月号からの転載文
導入製品
施設概要
—現在新病院を建て替え中
当院は1974年に三重県立大から移管され、今年(14年)で40年目を迎えた国立大学病院で、全国の国立大学病院の中で唯一海辺にある病院である。また、三重県で唯一の特定機能病院として最先端のがん治療、移植治療、血管内治療などの最先端医療を実践できる施設であり、病床数は685床(一般病床655床、精神病床30床)を備えている。
現在、2期にわたる新病院建て替えの途中で、I期工事分(新病棟)は11年12月に終了し、12年1月より新病棟での診療を開始している。II期工事分(外来棟)は現在工事中で、15年3月に完成予定である(図1)。
病棟移転に伴い、救命救急センターと集中治療センターの機能を拡充し、救急や手術後などの重症患者を集中的に治療することで治癒率の向上を図り、高度先進医療の遂行に努めている。12年2月よりドクターヘリの運用を開始し、三重県の3次救急医療機関としての重要な役割を果たしている。
設備面では、効率よく質の高い検査・診療ができるように、放射線関連装置や院内ネットワーク(無線LAN環境など)を充実させた。さらに医療ネットワークの推進として、インターネット等の専用回線を利用して県内の各病院と救急遠隔画像診断システムを構築し、県内の医療機関と一体となって三重県の医療水準の向上のために取り組んでいる。
血管撮影部門では、新病院開院に合わせて血管撮影室を3室から4室に増設し、近年、増加傾向にあった検査、治療に対応できるように整備した。12年度の血管撮影検査数は2317件で、このうち循環器症例数は1310件、循環器IVR症例数は563件となっている。
当院での動画ネットワークシステムの変遷
当院におけるシネ画像の歴史は、40年ほど前の16mmシネフィルム(現像所への委託現像)をスタートとしており、35mmシネフィルム(委託現像→自施設での現像)の長い時代を経て、00年にはシネフィルムレス化となった。当時のシネフィルムレス化はシネデータをCD -Rに焼き、シネフィルムの代わりにオフラインで運用することから始める施設が多かった。
当院では、GE製のGEMnet2000 サーバを導入し、血管撮影室と循環器内科、心臓血管外科の3ヵ所に、専用のビューアワークステーション= C R S(Cardiac ReviewStation)を設置し、この3ヵ所のみであったが、オンラインでの画像観察および解析を行っていた(専用の光回線/ATMを用いなくてはならず大変高価であったため、最低限の設置台数であった)。しかし、この時代はHDD容量も少なく、過去画像を即時に呼び出せないなどの制約や、動画サーバの安定実績も不十分であったため、オフラインでデータを管理できるCD - Rを用いた運用がメインとなっていた。
オフラインでの動画観察・解析・計測には、Heart lab 製のビューアを循環器内科、心臓血管外科、小児科、血管撮影室に配備し、貸し出し手続きを行ったCD - Rを挿入して観察・QCAの解析等を行っていた。 その後、07年に院内完全フィルムレス化に伴い、血管撮影装置のDSAのフィルムレス化を達成させるとともに、シネ動画も、貸し出しCD - Rによる運用と動画配信先が3ヵ所に限られていた旧態システムから、グッドマン製、大容量動画専用サーバを用いた運用へと移行させ、完全CD - Rレス化を実現させた。
グッドマン製循環器動画ネットワークシステムの構成は、2TB RAID5 で約7年分の画像ストアであり、この時代から院内LANがGiga Bit へと整備され、専用端末の配置場所に制約がなくなった。また、他のモダリティであるIVUS・OCT入力や循環器画像レポートシステムにも対応可能になった。
専用端末は血管撮影室、臨床工学技士控室、循環器内科、心臓血管外科、小児科に設置した。解析ソフトはフローティングライセンス契約が可能となり、複数場所での使用が可能となった。さらにシネ画像のWeb配信が可能となったことにより、専用端末がない所でも院内電子カルテのある所であれば、どこでもシネ画像を参照できるようになった。
12年1月の新病棟開院に合わせ循環器専用血管撮影装置の増設が行われることとなり、循環器動画ネットワークシステムも更新する運びとなった。システムの選考に当たり、07年からの使用で発生した数々の問題点を解決すべく、従来までの機能を欠かすことなく、HISはもちろんRISとのさらなるスムーズな連携と操作性・将来性を重視し、フォトロンのKada-Solution を導入した。
このシステムは、マルチモダリティ対応DICOM動画ビューアである「Kada-View」、マルチモダリティ対応DICOMサーバである「Kada-Serve」、循環器領域向けレポートシステムである「Kada-Report」から構成されている。
DICOM動画ビューア
—操作方法が簡単でメリット大きい
導入後最初に感じたのは、操作方法が大変簡単なことであった。ビューア画面上のアイコンやコマンド入力は最小限で、画面上に画像処理インターフェースが組み込まれており、コントラスト、フィルター、ズームをはじめとしたさまざまな画像処理がマウス操作のみで簡単にでき、大変便利で好評である。
他社の多くのビューアが専用端末とWebビューアでGUIが異なることが多い中、フォトロン製ビューアは同一の構成で仕上げられているため、この機能が端末に依存することなく使用できる。
本来であれば、導入後からある程度の期間は使用方法についての問い合わせ等が多々あることが日常的だが、そのような事例もほぼ皆無であったことからも、機種選考をした我々も大変助けられたように感じる。
患者検索方法はID、氏名の指定ではもちろん、カレンダー上での日付指定や閲覧したい期間をマウスでドラッグするだけで、その日、その期間の検査画像が容易に検索でき、大変便利である。専用端末への個人の認証は生体情報認証(指紋による認証)デバイスにより、各個人、職種ごとに権限の設定を行い、端末自体も院内のネットワークへMACアドレス登録を行い、通信セキュリティの管理対策をしている。
また、「Kada-View」は血管撮影動画像だけでなくIVUS・OCT画像も閲覧可能で、これらの画像をビューア上で長軸像として自動生成する機能を有している。これにより病変長の距離計測やステント留置前後での面積計測を簡単に比較することができ、患者への説明や術後カンファレンス等に大変重宝している。
その他に、専用端末でのみであるが動画をさまざまなファイル形式で出力でき、研究発表用等に有効に活用できる。もちろん患者情報保護の観点から匿名化しての出力設定は無論、画像処理をした状態での保存、出力も可能となっている。また専用端末からのUSB出力は一切できないように設定されており、匿名化した画像データを持ち出す際にはCD - Rのみでの出力に制限され、安全管理も考慮されている。
「Kada-View」は血管撮影室に6台(第1〜4検査室、小児科用、臨床工学技士用各1台)と循環器内科病棟、循環器内科医局、循環器内科・心臓血管外科カンファレンス室、小児科外来、小児科病棟、小児科・心臓血管外科カンファレンス室、臨床工学技士控室に各1台の合計13台配備している(図2)
DICOM動画サーバ
—コストパフォーマンス に優れ、冗長性が保たれた画像保存領域
「Kada-Serve」は、DICOMサーバ、Webサーバおよびレポートサーバを1つのサーバ筐体で運用できるため、導入費用、保守費用を抑えることができ、コストパフォーマンスの高いサーバシステムである。血管撮影装置よりDICOMデータを受信後すぐに、電子カルテシステムやPACSへ配信する圧縮画像であるWMV形式のデータを作成する。WMV形式のファイルはDICOMデータの約6%までデータサイズを圧縮できるため、全ショットをストレスなく参照でき、診療の効率向上を図ることが可能である。
動画サーバの画像保存領域は、RAID5の構成によって冗長性が保たれており、ホット・スペアによる予備のハードディスクを装備し、ディスクの故障時には自動的にRAIDを再構成することを可能としている。また、電源の瞬断・落雷などによる停電対策のため、無停電電源装置を構築している。HDDの冗長性以外にも、バックアップにLTOテープ装置を配備し、データの安全性を十分に確保している。
保存実効容量は、当院の過去分の全画像と導入後5年間保存できる容量を設けるため、10TBのストレージを構築した。更新以前の動画サーバ内の過去画像約11年分のデータ約2TBの移行に関してはフォトロンより2名の作業員を当院へ配置してもらい、手作業で約1ヵ月かけて作業を完了した。
心機能解析ソフトウェア
—シームレスな連携可能
心機能解析にはPieMedical のCAAS5シリーズを用いている。CAAS5シリーズはQCA、LVA(Biplane 対応)を使用しており、「Kada-View」とシームレスな連携が可能であり、解析結果を「Kada-Serve」に送信し、検査に追加保存できるため動画とともに参照が可能である。本ソフトウェア導入当初は取扱説明書を片手に不慣れに操作していたが、数日で感覚的な操作を行えるようになった。
レポートシステム
—「Kada-View」と電子カルテ上での閲覧が可能
当院におけるレポートシステムは、手技や医療材料、透視時間や被ばく線量、解析結果(心機能、右心カテーテル測定値)、冠動脈内イメージング(IVUS/OCT/FFR)、研究関連入力項目等を設定している。またこれらを医師以外のスタッフからも入力できるように構築しているため、詳細なデータ収集および登録が可能となっている。
また、DICOM動画サーバの項でも述べたが、これらのレポートとDICOMサーバを1つの筐体で作成・運用できることは煩雑な入力操作を抑えられ、大幅な時間短縮にもつながっている。
レポートフォーマットは、当院では虚血、不整脈、肺、小児とカスタマイズされており、それぞれの分野を専門とした循環器内科の担当医(小児は小児循環器領域の担当医)とヒアリングを重ね、各担当医がレポート作成および参照のしやすい環境を構築した。また、以前のシステムで作成したレポート結果は、過去画像同様全て移行し、「Kada-View」および電子カルテ上で閲覧することが可能となっている。
他院紹介用データの書き出しと読み込み
07年に行った院内完全フィルムレス化に伴い、院内の静止画像データを他院紹介用ディスク媒体として作成するためにCODONICS製のVIRTUA MEDICAL DISC PUBLISHER(以下、パブリッシャー・図3)を放射線部受付に配備した。しかし、動画画像データに関しては動画サーバと本機との接続ができていなかったため、血管撮影室に設置の動画用ワークステーションにて手作業で紹介用ディスク媒体を作成する必要があり、技師の負担となっていた。
動画サーバをフォトロンに入れ替えてからは「Kada-View」で対象患者の検査を「Kada-Serve」から読み込み、対象患者のデータのコンテキストメニューから「検査をパブリッシャーで書き込む」を選択する(図4)とパブリッシャーにて自動で作成されるようになり、効率化された。もちろん、Kada-ViewPC本体からも「検査をディスクに書き込む」を選択することで、簡単に媒体が作成可能である。また、媒体にはフォトロンの動画ビューアソフトのバンドルや匿名化の可否も選択可能である(図5)。
他院紹介用データの読み込みは、「Kada-View」PC本体にて行う必要があり、依頼があった場合には放射線部受付より血管撮影室に媒体を持ち込んでもらい、対応している。
導入後に見えてきた課題と展望
新病棟が開院し、新血管撮影室での運営から2年の月日が経とうとしている。当院からの多岐にわたる指摘事項やカスタマイズ要望に対して迅速・的確な対応を行ってもらったことにより、コストパフォーマンスに優れ、安定性があり、細部にわたるまで使いやすいシステムになってきた。約2年後には2期工事も完了( 15 年5月開院予定)し、新外来棟での診療が開始されると、今まで以上の受診患者数が見込まれる。
このような状況の中、早急に対応しなくてはならない課題が、前項でも述べた紹介用媒体の作成および読み込み手順の整備である。 現在、紹介用媒体の作成および他院からの紹介用データの読み込みは、放射線部受付が窓口となって行っているが、動画に関しては実際、作成および読み込みを行うのは臨床現場の中で診療放射線技師が片手間に行っているという煩雑化した運用となっている。
今後、放射線部受付の中で効率よく運営していくには、「Kada-View」PC本体の放射線部受付への設置が望まれる。しかし現実には端末自体の価格がネックになると思われる。そのため、フォトロンには、安価で導入できる読み込み専用の端末もしくは他のPCにインストールできる読み込み専用ソフトの開発等を望みたい。
また、今日、血管撮影検査に限らず手技中の透視画像の保存が望まれている。このような要望にも迅速確実に対応し、動画サーバであるKada-Solution がモダリィティの垣根を越えた院内のトータル的な放射線動画管理システムとして発展していくことを期待する。
山田 剛(やまだ・つよし)
●72年三重県生まれ。95年鈴鹿医療科学技術大(現:鈴鹿医療科学大)放射線技術科学科卒。同年三重大医学部附属病院中央放射線部勤務。03年同院主任診療放射線技師、10年副診療放射線技師長。