導入事例
昭和大学横浜市北部病院様 循環器動画像デジタルネットワークシステムの有用性
要旨:動画像ネットワークシステムを導入するに当たり、当院の現システムである放射線画像情報システムとの問題点を明らかにするとともに、導入したネットワークシステムが当院の運用に適した部分についてまとめる。
昭和大学横浜市北部病院放射線部佐籐技師に執筆いただきました。
月刊新医療2007年1月号からの転載文
導入製品
現在の医療には、質の向上、安全性、透明性、効率化が求められている。これらを達成する手段として「医療の情報化」が求められており、医療機関をはじめ、産官学協力のもと鋭意推し進められている。
循環器領域では、35mmフィルムのアナログ管理から動画像デジタルネットワークシステムによりワークフローが改善され、近年では、より高次の病院情報システムとの融合が模索されている。
当院は、横浜市の地域中核病院整備構想に沿って01年4月に開院した。現在661床の病院規模で、急性期型の地域医療機関病院の役割を担っている。ここで、循環器領域においては循環器内科、循環器外科(成人)、小児循環器を統一してセンター化し、積極的な診断治療を行っている。この中で循環器内科における診断カテーテル検査・インターベンションは、年間約1000症例、そのうちインターベンションは約450症例を数える。
当院では06年9月に心臓カテーテル装置、島津製作所製FPD(Flat Panel Detector)搭載心臓カテーテル装置「Safier SP」と、同時に新しい循環器動画像デジタルネットワークシステムを導入し、使用する機会を得たので、運用経験からみた本システムのメリットについて報告する。
循環器動画像デジタルネットワークシステム
当院は開院時からペーパーレス電子カル2テを中心として、オーダリングシステム、部門システム、医事会計システムからなる病院情報システムを構築・運用している(図1)。
画像やレポート等、各種検査結果の参照は電子カルテ端末ですべて行われ、シームレスな環境が実現している。ネットワークはバックボーンにギガbit イーサネットを用い、端末100M bit の高速な通信が可能となっている。さらに、VLANでグループ化することで、大量の放射線画像データが基幹システムに影響を与えないように考慮されている。今回の動画像システムもこの院内ネットワークシステムの範囲で接続するため、通信容量の軽減が課題であった。
(1)動画像用画像サーバ
循環器動画像デジタルネットワークシステムは、Photron 社製画像サーバKada-Serve(以下「Kada-Serve」)と端末である専用ビューワPhotron 社製Kada-View(以下「Kada-View」)で構成される。Kada-ServeにはIVUS画像も取り込み、心臓カテーテル画像とIVUS画像をKada-View で並列に参照可能となっている。ハード構成は、RAID5(3本のHDDホットスタンバイ)で容量1・9TB、バックアップにはデジタル磁気テープLTO2(200GB)を用い、データの安全性を図るとともに十分な容量を確保している(図2)。
また、Kada-Serve はDICOM動画データをWindws Media Video File(以下「WMV」)形式へ変換して保存する機能を備えている。これによりストリーミングで配信が可能となり、参照に際してネットワークへの負荷を軽減するとともに高速な参照を可能にしている。
なお、WMV形式の画像は、経験のある医師、放射線技師が目視で評価した結果、原画と比べほとんど遜色なく、参照には十分な画質であることを確認している。
(2)Kada-Viewの配置
Kada-View を10台、以下の場所に設置した。血管造影検査室(3台)、循環器センターカンファレンス室(1台)、医師コーナー(2台)、手術室(1台)、循環器外来(1台)、集中治療室(1台)、小児病棟(1台)である。
(3)心機能解析
QCA、LVAの解析は、Kada-View オプションの解析ソフトCAASIIで解析を行う。結果は、静止画像としてKada-Serve へ送信・保管し、Kada-View で動画像とともに参照可能である(図2)。
現場での導入メリット
(1)動画サーバ
先にも述べたとおり、今回導入したKada-Serve はDICOMデータとは別に、WMV形式のデータを作成する。WMV形式のファイルはDICOMデータの約6%までデータサイズを圧縮でき、全ショットをストレスなく参照でき、診療の効率向上が図られている。
(2)IVUS画像の保存と参照
IVRにとって心臓カテーテル検査とともに、IVUSは必要不可欠な検査となっている。しかし、従前IVUSは画像容量が大きく、保存は行っても時間と手間がかかるためほとんど参照は行われなかった。
これに対し、Kada-Serve とKada-View システムでは、心臓カテーテル画像と同じくWMVファイルが作られ、画像データ量を軽減した参照を可能にしている。これにより、画像検索が容易になり、過去の検査・治療の確認、フォローアップが効率的に行え、IVRの質の向上が図れている。
(3)新、旧心臓カテーテル画像の自動濃度調整
当院では、06年9月に心臓カテーテル装置を更新した。そのため、2種類の検査装置で得られた画像が混在し、画像表示状態が得られた検査装置ごとに異なるという支障を来した。これは、DICOMのタグにWW、WC(L)の情報がないためである。そこで、Kada-View に検査装置ごと表示状態を一定にするようWW、WC(L)を与える機能を備えた。
この結果、画像表示状態は一定となった。デジタル動画像における大きな欠点である装置間での画像表示の違いをKada-View が克服したことは、評価に値するものである。
(4)DICOMフォーマット以外の画像作成が容易
Kada-View では、DICOMデータをMVW、AVI、MPEG等の汎用なファイル形式へ変換が簡単に行える。また、静止画としてBMP、JPEGへも変換でき、画像データを教育・研究にも使いやすくしている。
さらに、メディアの保存規格であるDICOMDIRに準拠したCD—Rを作成でき、必要に応じて簡易ビューワ機能をインストールしておくことで、スムーズな医療連携が実践できている。
(5)データ検索の容易な画面構成
動画ビューワの重要な機能として、データ検索の容易さが挙げられる。画像検索は頻繁に行われ、検索機能は診療の効率を左右する重要な要素である。
Kada-View は、ID、氏名、日付による検索、及び週単位、月単位、年単位で絞り込んだ検索が行えるなど機能が充実している。また、検索した画像データはKada-View のローカルに保存され、以降の画像表示が速やかに行える。これは、常に瞬時の対応を必要とする検査・治療には大変有効である。
動画像が取り組むべき2つの課題
(1)現在、画像検査装置の画像は1024マトリックスだが、保存は512マトリックスであり、本来のスペックで画像を保存できていない。容量の問題もあるが、動画像ネットワークシステムは、FPDの登場で高画質化する検査機器への追従が今後は必要である。
(2)画像検査装置では、高画質化の画像処理を行って画像表示を行っている。各装置メーカ独自のアルゴリズムで処理を行っており、その状態では画像を保存できない。これは、診断画像と保存画像が異なっていることを意味し、本来、電子保存にはあってはならない状況である。したがって、画像装置メーカは画像処理の済んでいる画像データを出力する義務がある。
ユーザーとベンダーの連携が重要
心臓カテーテル検査・治療の臨床現場では、治療戦略を立てるのに、繰り返し画像参照が行われる。このため、動画像ネットワークシステムのパフォーマンスが診療の効率を左右する重要な鍵を握っている。したがって、我々ユーザーは、画質の向上、迅速な画像観察を低コストで実現できるようベンダーとともに性能向上に努める必要がある。
今回、当施設で導入したKada-Serve、Kada-View システムは、未だ成長の過程にあるがその期待に応えるものでる。今回の使用経験から、臨床で有効な動画像ネットワークを構築するためには、ユーザーはシステムのあり方を明確に持ち、ベンダーがその意見を取り入れて機能を実現する両者の連携が重要である。
参考文献
1)稲田毅:循環器動画デジタルシネネットワークの現状と方向性、月刊新医療、No. 371, 120-124, 2005
2)日本医療情報学会:電子カルテの定義、医療情報医療情報システム編、第1版、p 202-p 203, 篠原出版新社、2004
佐藤久弥(さとう・ひさや)
●66年山梨県生まれ。92年城西放射線技術専門学校卒。92年から01年まで昭和大学病院放射線部勤務、01年から昭和大横浜市北部病院放射線部勤務、現在に至る。