動画像ネットワーク導入の経緯
本院のフィルムレス化は、2009年9月に電子カルテ(富士通社製)導入と同時にスタートした。当院の画像サーバは、DICOMフォーマットをベースにしている。放射線画像全般(DICOM画像)、内視鏡の静止画、超音波の静止画、各診療科から生じるデジタルカメラ等の画像をゲートウェイでDICOM画像に変換することで、院内で発生するほとんどの画像をDICOM画像に統一し、DICOMフォーマットによる統合医用画像サーバ(横河医療ソリューションズ社製)を構築したのである。
10年4月には、歯科のパントモ、デンタル画像もDICOMフォーマットで統一し、静止画における統合医用画像サーバシステムは一段落した。
静止画の院内配信が落ち着いた12年3月より、脳血管装置更新に合わせてPhotron 社製の動画像サーバ(以下、Kada-Serve)と動画像専用Viewer 端末( 以下、Kada-View) を4 台導入した。当初は、Kada-Serve の保存容量は実効容量で22TBであり、電子カルテ1200台に対し動画像配信(Web)同時アクセス100台のシステムが必要であった。その後15年3月の電子カルテの更新の時に保存容量は53TBに増強し、現在に至っている。
12年のKada-Serve には、脳血管撮影装置(1台)、心カテ装置(2台)を直接接続した。超音波センター(心臓エコー、血管エコー、小児心エコー、腹部エコーなど:12台接続)には、既に独自の動画像サーバ(ビゴメント社製)が設置されていたが、院内配信を目的にしていなかったために、この動画像サーバからDICOMの動画像を転送し、Kada-Serve に保存・管理することにした。
Photron の動画像サーバの特徴は、DICOMのオリジナル動画像を保存後、オリジナルを直接参照することができるKada-ViewとWindows Media Video(WMV)に変換した動画像を参照するKada-View Web にある。電子カルテ端末のスペックを考慮し、動画像配信はKada-View Web を採用することにした。14年には、ハイブリッド手術室の血管撮影装置をKada-Serve と接続し、15年には、汎用型血管撮影装置、IVR専用血管撮影装置、X線透視装置(2台)を接続し、超音波装置も15台の接続数となった(図1)。
図1 動画像サーバと電子カルテの関係
動画像ネットワークの考え方
動画像のDICOMオリジナルデータは、参照端末とネットワークに負担が大きいため、先に構築した静止画ネットワークと動画像ネットワークを独立した構成とした。これは、静止画ネットワークの中に動画像を混在させた場合、大幅にパケット数が増えるため、静止画ネットワークのパフォーマンスが低下することを危惧したからである。したがって、当院のネットワークは、電子カルテに対して、静止画ネットワークの後方に動画像ネットワークが直列に接続した構成とした。
実際には、ネットワークスイッチで静止画と動画像のセグメントを分離し、加えて静止画ネットワークに対し、通信が必要な動画像サーバや検像端末のみに通信を許可し、その他の端末等は、動画像ネットワークしか通信ができないようにした。これによって、動画像ネットワークのパケットが静止画ネットワークに混在することを低下させ、高速な静止画ネットワークと高速な動画像のネットワークを両立した。
動画像圧縮率の検討
DICOMフォーマットの動画像は、大容量のデータを発生しネットワークと端末に負荷がかかる。このため、専用の環境が必要である。当院では、動画像ネットワークの基幹には10Gbpの二重化を図り、DICOMオリジナル動画像は、Kada-View で参照できるようにしている。
一方で、電子カルテ端末での動画像参照のニーズは高く、検討が必要であった。Kada-Serve は、DICOMオリジナル動画とWMVフォーマットの2種類を保存している。メーカの推奨するWMVファイルは圧縮率が1/10であったが、初期の運用で調査したところ、心カテ画像の低濃度部分に僅かにブロックノイズがある症例が見られたことから、当院では1/5圧縮のWMVを採用しKada-View Web で電子カルテ端末に配信することにした。このことで、電子カルテ側の負荷を低減でき、約1300台の電子カルテ端末に対して遅滞なく動画像をWeb配信することができている。また、電子カルテと連動するViewR からKada-View Web を起動して目的の動画像を瞬時に参照できる構成とした(図2)。
また、動画像を院外に紹介することに対応するため、ディスクパブリッシャ(リマージュジャパン社製) のW e b 機能を使って、Kada-Serve から指定されたデータをダウンロードして紹介ディスクを作成するシステムも同時に構築し、現在運用している。
透視画像の利用と管理
話は12年に戻るが、同時期にPhotron 高精細録画装置(Kada-Rec)を1台導入し、脳血管撮影装置と接続し、高精細な透視画像を長時間録画するシステムを開発した。ここでいう高精細とは1024 × 1024matrix 程度の解像力である。当時は、透視装置や血管造影装置から出力される透視画像を録画する場合、1024 × 1024matrix の画像を525本系にダウンコンバートしてDVD–Rまたはハードディスクに保存していた。このため画質が悪く、とりあえず透視画像を録画する程度であった。
透視画像を考えた場合、透視画像の解像力そのままで録画したい。しかし、単純に高精細な透視画像を録画するだけでは後利用は期待できない。透視画像専用の画像サーバが必要である。そのために、Kada-Serve に高精細透視録画システムのサーバ構築をすることにした。透視録画を管理するためには、透視録画ファイルに患者情報を付加する仕組みが必要であった。そこで我々は、放射線機器がMWM機能を使って患者情報を検査機器にセットしていることに注目し、Kada-Rec にもMWM 機能を搭載し、患者情報をセットできるようにした。このことで透視録画を患者単位で管理できるようになり、同時に、目的の透視画像を容易に検索し参照できるようになった。
Kada-Rec の録画の仕組みはシンプルで、透視装置や血管撮影装置のモニター出力信号を直接ディジタルサンプリングし、1024 ×1024matrix 以上の画質で録画するものである。サンプリングピッチは、15fps と30fpsの切り替えがある。一般的な血管撮影を録画する場合、15fps で十分である。1024 × 1024matrix:15fps をWMVで透視を録画した場合1時間当たり1GB程度であり、運用上大きな問題はないと考えている。しかしながら、血管内治療を行う場合、検査時間が2時間以上になる場合もある。このため、配信方法はWMVによるストリーミング配信を採用している。画質はダウンコンバートしないため、検査中に見ている透視画像と同等の高精細な透視画像が得られる。マイクロカテーテルの操作も鮮明に観察することができ、透視画像の利用が期待される。
そこで15年3月の電子カルテのリプレイスに合わせて、脳血管撮影装置を始め、汎用型血管造影装置、IVR専用血管撮影装置、ハイブリッド手術室、透視装置2台(計6台)にKada-Rec を接続し、大規模に透視録画を開始した。現在は血管撮影以外に、透視装置による嚥下造影や小児の逆行性尿管造影など、透視画像の録画が増えてきている。Kada-Recの録画データは、本体からディスクに書き込むことでアウトプットすることができる。当院では、Kada-Rec の録画データをKada-Serve に転送し保存している。そこで、Phtoron と共同開発で電子カルテ端末から透視画像が参照できるようにViewR と連携して院内配信するシステムを構築した(図3)。
Kada-Rec の開発においてもう1つの目的があった。それは、高精細透視画像のリアルタイム配信である。これにより、遠方から血管撮影の検査手技を参照することができる。このため、他の医師に助言を求めたり、スタッフに検査の進行状況を配信したりすることができる。現在の当院のシステムはソフトエンコードではあるが、動画像サーバから動画像専用LANと専用端末の環境下で、30秒程度の遅れのタイムシフト配信が可能である。将来的に、電子カルテ端末に透視画像のタイムシフト再生ができればと検討している。
今後の応用に期待
医療における動画像は、静止画と違う情報を持っている。一般的に静止画に求められることは、解像力や濃度階調、カラーであれば色合いなどである。一方で動画像は、静止画と比べると、解像度よりフレームレートや濃度分解能が重視される。
DICOMによる動画像は、数秒間撮像するだけで静止画と比べものにならないほど大きなデータ量になる。また、カラーになればさらにデータ量は大きくなる。画像ネットワークは、これらの点を踏まえて構築する必要があると考える。特にネットワーク速度は、高速配信(レスポンス)を維持する工夫が必要である。現在の環境を考慮すれば、支線は1Gbps が基本で、基幹は10Gps の二重化は大規模病院クラスでは不可欠だと考える。
当院では、基幹のネットワークスイッチから遠隔にある各ネットワークスイッチもリンクアグリゲーションで接続しており、ネットワークの冗長化と高速化を実現している。また、不要なパケットを低減する工夫も行っている。インフラであるネットワークの高速化は重要である。
透視画像を高精細な画質で保存することは、約20年前からの夢であった。私が提唱している高精細録画システムは、まだ十分なものとはいえないが、今まで捨てていた透視画像を利用することで、検査目的によっては、被ばく線量を低減できる可能性がある。この高精細録画システムは、透視画像以外に、内視鏡や術場カメラの録画にも応用可能だと考えている。
最後になるが、医療における動画像の利用は始まったばかりである。今後の多くの応用を期待するところである。
岩永秀幸(いわなが・ひでゆき)
●63年東京都生まれ。86年熊本大医療短期大学部診療放射線技術学科卒。同年山口労災病院放射線部に就職。98年山口大医学部附属病院放射線部主任として就職し、10年同放射線部の副診療放射線技師長に就任。15年同大病院の地域遠隔医療センター副センター長を兼務し現在に至る。98年に保健衛生学士を取得し、00年に放送大教養学科を卒業。
山口大学医学部附属病院 放射線部 岩永秀幸